ちひろ美術館・東京 美術館だより
◆表紙の作品

「中臣宅守(なかとみのやかもり)」1970年
『万葉のうた』より


女学校を出たころに斉藤茂吉の『万葉秀歌』を愛読し、また藤原行成流の和歌の散らし書きで親しんだ万葉集は、ちひろにとって青春の文学でした。ひざを抱えて座るのは、身分ちがいの恋のために越前の国に流された中臣宅守です。「塵泥の数にもあらぬわれ故に思ひわぶらむ妹が悲しさ」(ちりや泥のようにつまらない自分のために、つらい思いをしているだろう彼女のことを思うと悲しい)。流刑地にありながら恋人の身を案じる宅守の謙虚で温厚な人柄を、ちひろは端正な横顔で表現しています。人物をおおうように背景に広がる墨の濃淡が、悲恋の哀愁にくれる宅守の心情を暗示しているようです。

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