理事長あいさつ

公益財団法人いわさきちひろ記念事業団理事長
山田洋次 (映画監督)

練馬区の住宅地のなかに、遠慮がちにひっそりと建っている「ちひろ美術館・東京」と、北アルプスを望む広々とした高原にゆったりと屋根を拡げる「安曇野ちひろ美術館」。このきわめて対照的な風景のなかの二つの建物が、私たちの財団が運営する「ちひろ美術館」です。

ぼくには、いわさきちひろの柔らかな絵は、か弱い少年や少女、くじけそうになる弱い人間たちを、あらゆる意味での〝暴力〟からかばおうとしているように感じられます。雨上がりの水たまりに映る青い空を見てすがすがしい気持ちになったり、名も知らぬ小さな草花の美しさに感動したり、ありとあらゆる生命をいとおしく思う、人間が人間であることのあかしであるような柔らかな感性―ちひろは、それを断固として守りつづけた人だと思います。

月に一回か二回でいい、家族や恋人たちが連れ立って美術館に出かけて絵を見ながらゆったりと時間を過ごす、そんなことが日本人の暮らしのなかの習慣になればどんなにいいだろう、ぼくたちの国がそのような穏やかで平和な国であって欲しいと思います。ちひろの思いを大切に守りながら、われわれは美術館活動を推し進めていきます。ちひろ美術館を愛してくださるみなさん、これからもどうかよろしくお願いします。