娘時代を戦争の中で生き、空襲で家を焼け出された経験をもついわさきちひろは、第二次世界大戦後、絵を通して、平和の大切さを語りつづけた画家でした。
 癌で1974年に世を去るまで、ちひろが心を痛めつづけたのは、当時、爆撃にさらされていたベトナムやカンボジアの子どもたちのこと。ベトナム戦争で最も北爆が激しかったといわれる1972年には、「このままでは、ベトナムの子どもたちがみんな殺されてしまうのではないか」との思いから、病に冒されながらも、絵本『戦火のなかの子どもたち』(岩崎書店)を制作しています。(完成は1973年)

あとがきで、ちひろは、こう記しています。

「ベトナムでは長いこと戦争がつづいておりました。いまだってほんとうは戦争はおわっていないのです。アメリカの爆弾が、おとなりのカンボジアの国にまでおとされているそうですから。わたしは日本の東京のせまい仕事場で、それらの戦争のことと、わたしの体験した第二次世界大戦のことを、こころのなかでいつもダブらせてかんがえていました。戦場にいかなくても戦火のなかでこどもたちがどうしているのか、どうなってしまうのかよくわかるのです。こどもは、そのあどけない瞳やくちびるやその心までが、世界じゅうみんなおんなじだからなんです。そういうことは、わたしがこどものための絵本をつくっている絵描きだからよけいわかるのでしょうか。」