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vol.26花のある絵本

安曇野ちひろ美術館で開催中(会期:2016年3月1日(火)~2016年5月10日(火))の「ちひろ―その心、花にたくして」、および「ちひろ美術館コレクション 花の博覧会」展にちなんで、花のある絵本を選びました。


『花仙人』
『花仙人』
松岡享子 文 蔡皋(さいこう) 画
出版社福音館書店 出版年 1998年
花をこよなく愛する秋先(しゅうせん)は、丹精こめて木や草花を育て、歳月をかけて庭は見事な花園になりました。大輪の牡丹の花が咲き誇る庭に、乱暴者の張委(ちょうい)とその手下が押し入り、すべての花を折り散らしてしまいます。嘆き悲しむ秋先の前に娘が現れ、「落花返(らっかへん)枝(し)の術」で花をもとに戻しますが、このことで秋先は「妖術使い」の疑いをかけられます。明代の短編小説選集『今(きん)古奇観(こきかん)』に収められた中国の昔話で、幼少期にこの物語を読んだ松岡は、美しく幻想的な情景を深く心に刻んだといいます。50年以上のときを経て、画家に中国の蔡皋(さいこう)を迎えて「花仙人」の絵本化が実現します。花の乙女や、花仙人となって昇天する秋先の姿を、蔡皋は水彩のにじみを生かした、素朴な筆致で描き出しました。
『あのおとなんだ』
『あのおとなんだ』
谷内こうた 絵 武市八十雄 文
出版社至光社 出版年 1971年
主人公の少年は熱があって、眠れません。そんな彼の耳に、音が聞こえます。彼を呼ぶ音を探し求めて少年は部屋を出、林にたどり着きますが、それでも音の主が何なのか分からず、つかれた少年は眠りにおち、朝の光で目覚めます。絵本の最初のページに描かれたのは、窓のそばの色の無い一輪の花。そして、最後のページには、同じ一輪の花が、赤い花びらで、青空を背景に凛と咲いています。夜のくすんだ青を基調にした絵が、夜明けとともに赤の色になり、谷内が書いているように「希望さえもてる」エンディングが、少年の回復を象徴しているようです。
『かっぱかぞえうた』
『かっぱかぞえうた』
瀬川康男・文
出版社福音館書店 出版年 1994年
信州に移り住んだ瀬川康男は、散歩の途中で木の根元からわらわらと出てくる河童たちにあったことがあるといいます。河童に魅せられ、絵本に登場させたいと願ってきた瀬川が、ついに実現させた河童の絵本です。「ひとつ ひめゆり ひょっこり かっぱ」「ふたつ ふしぐろ ふたごの かっぱ」……。画家自作の数え歌には野の草花の名前が詠み込まれ、その草花を携えた河童たちが次第に数を増しながら登場します。石膏の下地に描かれた草花や河童たちは淡く透けて、昼の野の幻のよう。河童たちといっしょに遊ぶ一匹のかえるが、狂言回しを担っています。
『あかいはなとしろいはな』
『あかいはなとしろいはな』
長新太 文
出版社教育画劇 出版年 1996年
気持ちのよい朝、赤い花のなかで目を覚ました「わたし」は、今日も湖へ行き「さかなさん」のしっぽに咲いている白い花を見せてもらいます。やがて夜が訪れ、月明かりのもと、白い花はよい香りを放ちます。翌朝、今度は「さかなさん」が赤い花を訪れ、「よいかおり」とほめてくれます。大きな赤い花と小さな白い花がそれぞれ昼の場面と夜の場面で対照的に描かれています。詩のような短いことばとともに静かな余韻を残す場面が、次第に広がっていく幻想的な花の香りとともに展開していきます。長新太が描く花は、不思議な形や鮮やかな色だけではなく、芳醇な香りとともに、五感を刺激して生理的な心地良さへと導いていきます。
『春のわかれ』
『春のわかれ』
槙佐知子・文 赤羽末吉・絵
出版社偕成社 出版年 1979年
家宝の硯を割ってしまった青年の罪をかぶり父の怒りをかった若君が、悲しみのあまり病に倒れて命を落としまうという『今昔物語』のなかの一話をもとに絵本化された作品です。「内面的に追及する仕事」を初めて試みたという赤羽は、儚い若君の命を散りゆく一輪の花にたくして描いています。透かし文様や雲母、植物の葉を漉き込んだものなど場面にあわせて表情の異なる和紙を用い、繊細で無駄のない線描と色数を抑えた淡い色調で描き出された画面には、清澄で幻想的な世界が奥深く広がり、王朝の御代が立ちあがってくるようです。
『はなをくんくん』
『はなをくんくん』
ルース・クラウス 文 マーク・シモント 絵 きじま はじめ 訳
出版社福音館書店 出版年 1967年
土の下にはのねずみやくま、木の洞にはかたつむりやりす……。冬眠していた動物たちは、何かに気づいて「はなをくんくん」させながら目を覚ましました。いっせいに駆けていったその先には、雪解けを待たず顔を出した一輪の花。長い冬を越えて森に訪れた春を描いた物語です。 マーク・シモントは、雪深い無彩色の森を墨とコンテを使いモノクロームで描く一方、最後に見つける花のみを鮮やかな黄色に描くことによって、春の訪れの感動を際立たせています。その輝きは、冬の休眠を経て再び輝く動物たちの生命力にも重なります。
『ヨリンデとヨリンゲル』
『ヨリンデとヨリンゲル』
グリム童話 バーナーデット・ワッツ 絵 おきなぎ ひとみ 訳
出版社ほるぷ出版 出版年 1982年
恋人同士のヨリンデとヨリンゲルは、森のなかで道に迷い、恐ろしい魔女の住む城に近づいています。魔女の魔法でヨナキウグイスに姿を変えられてしまったヨリンデを救い出すために、ヨリンゲルは夢のなかに現われた不思議な赤い花を探しに出かけます。 ワッツは幼い頃から親しんできたグリム童話を、幻想的な色彩で描きだしています。黒や濃緑などの深みのある色に、明るいパステルカラーを重ねた画面には、「明と暗」「彩と濁」「線と面」など、対比する色彩と描法が同居しています。グリム童話の重厚な雰囲気と、繊細で柔らかな描写が調和した、ワッツならではの1冊です。