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vol.24ちひろ美術館コレクション画家が描いた戦争の絵本

戦後70年をむかえる今年、ちひろ美術館コレクション画家の絵本のなかから、戦争をテーマにしたものを選びご紹介します。
(安曇野ちひろ美術館において 2015年5月15日(金)~7月14日(火)まで 戦後70年特別企画展 を開催)


『絵で読む広島の原爆』
『絵で読む広島の原爆』
那須正幹 文 西村繁男 絵
出版社福音館書店 出版年 1995年
広島で被爆した生存者の証言をもとに、戦前から原爆投下、復興までの広島市のようすを、時間や場所をかえて克明に描いています。当時の街並みや人びとの暮らしぶりを描くのに、西村は1年近く広島に住み、証言者を訪ね、その後も何度も足を運んだといいます。
文を担当した那須正幹は、広島に生まれ3歳で被爆。科学の本としても、原爆の開発から投下にいたる歴史的背景、核兵器の原理や放射能障害など、多角的な視点から原爆を扱っています。核兵器と原子力発電との関連や危険性を指摘している点では、福島原発事故後の今日に、新たな意味をもつ本といえるでしょう。戦後70年、被爆の惨状を直接伝える語り部が減るなかで、ぜひとも若い世代の人たちに読んでほしい一冊です。
『エリカ 奇跡のいのち』
『エリカ 奇跡のいのち』
ルース・バンダー・ジー 文 ロベルト・インノチェンティ 絵 柳田邦男 訳
出版社講談社 出版年 2004年
第二次世界大戦中のドイツで奇跡的に生き延びた、ひとりの女性の物語です。生後2~3ヶ月のあかちゃんだった彼女は、ユダヤ人を乗せた強制収容所へ向かう汽車のなか、お母さんに抱かれていました。強制収容所の門をくぐる直前、お母さんはわずかな可能性にかけて、あかちゃんを小窓から外へ投げ出します。近くにいた村人に拾われ、いのちを救われたエリカ。そのひとつの「生」から、新たな生命の連鎖が生まれてくるのでした。
インノチェンティは、戦時中の回想シーンをモノトーンで描写したのに対し、あかちゃんを包む布を鮮やかなピンク色に描き、絶望に満ちた苦しい状況のなか、生に向かう小さなひとつのいのち、そして託された希望を対照的に描いています。
『ローズ・ブランチュ』
『ローズ・ブランチュ』
クリストフ・ガッラスとロベルト・インノチェンティ 文 ロベルト・インノチェンティ 絵
 クリストフ・ガッラスとロベルト・インノチェンティ文
ロニー・アレキサンダーと岩倉務 共訳 中野孝次・永井一正監修
平和博物館を創る会訳編
出版社平和のアトリエ 出版年 1990年
第二次世界大戦下のドイツの小さな町に住む女の子、ローズ・ブランチュ。ある日、彼女は町の郊外の森に、ユダヤ人の強制収容所を見つけます。電流の流れる鉄条網のなかには、飢えた子どもたちが大勢いました。戦争によって次第に町が荒廃し、人々が心身ともに蝕まれていくなか、ローズ・ブランチュは、毎日のように自分のお弁当を収容所の子どもたちに届けるようになります。しかし、そんな一筋の光のような良心さえもが、無残に打ち砕かれ……。 インノチェンティは戦時中の兵士や街の人々、収容所の子どもたちのようすを細部まで克明に描き出し、臨場感あふれる画面を作り出しています。戦争が人々を狂気へと追い込むさまを、まざまざと表した絵本です。
『じゃがいもかあさん』
『じゃがいもかあさん』
アニータ=ローベルさく いまえよしともやく
出版社偕成社 出版年 1982年
東の国と西の国がいくさを始めました。国境の谷間では、お母さんが二人の小さな息子と畑でじゃがいもをつくり、ささやかながらも幸せに暮らしていました。お母さんは、大切な畑や息子を守るために高い塀をめぐらせます。大きくなった息子たちは、塀越しに見た兵士の姿に憧れ、東の国と西の国へ旅立ちます。やがて兄弟は両国の軍を率いて、敵同士として戦います。
10歳でアウシュビッツの強制収容所に送られ、生きながらえて絵本作家となったローベルがこの作品を発表したのは冷戦下のアメリカでした。母親の愛情に包まれて暮らしているときの兄弟の満ち足りた表情と、いくさに明け暮れ荒んだ兵士たちの暗い表情が対照的に描かれています。生命を育む母親の無償の愛を想えば、いかなる戦いも無益で愚かなことであると気づかされます。
『なぜ戦争をするのか? - 六にんの男たち』
『なぜ戦争をするのか? - 六にんの男たち』
デイビッド=マッキー 作 なかむら こうぞう 訳
出版社偕成社 出版年 1979年
平和に暮らすことのできる地を求めて歩いていた6人の男たちは、ようやくよい土地を見つけると、一生懸命に働いて家を建て次第に金持ちになっていきます。すると、今度は泥棒が心配になって見張りを始め、更に自分たちの代わりに働く兵隊を雇います。さらに男たちは、兵隊の仕事を作るために、彼らに農場を乗っ取らせ、ついに戦争が始まります。
マッキーといえば、カラフルな『ぞうのエルマー』の作者として名が知られていますが、この絵本は黒いペンの細い線だけで構成されています。彼が若い頃手がけていた新聞や雑誌の風刺画をほうふつとさせる、ユーモラスな人物描写や、模様にさえ見える戦いの場面が、軽妙に重いテーマを伝えています。
『せんそう』
『せんそう』
エリック・バトゥ作 石津ちひろ 訳
出版社ほるぷ出版 出版年 2003年
王様や住民が皆、仲良く暮らすふたつの国。ある日、王様たちの散歩中に、ふたりの鼻の上に鳥がフンを落としたことから、一転、戦争が勃発します。それぞれの国民を巻き込みながら戦いが続くなか、子どもたちが国の垣根を超えて、かつての友だち同士で遊び始めたことをきっかけに、大人たちも武器を捨て、やがて、ふたつの国に再び平和が訪れます。
『ひろしまのピカ』
『ひろしまのピカ』
丸木俊 え・文
出版社小峰書店 出版年 1980年
1945年8月6日の朝、広島の街をのみこんだ原子爆弾。大けがをした夫を背負い、幼い娘をつれて、地獄のような街を逃げ惑った母親の物語です。作者の丸木俊は、夫の位里とともに制作した「原爆の図」で世界的に知られる画家です。丸木夫妻は原爆投下の数日後、位里の実家の安否を訪ねて広島市内に入り、1カ月にわたって被災者の救護活動をしながら、そこで目にした惨状、かろうじて命をとりとめた人々の悲痛な体験に向き合いました。GHQの統制が厳しく、正確な情報が伝わりにくかった当時、描ける者が描き残さねばとの使命感から取り組んだのが「原爆の図」です。この絵本は、北海道での「原爆の図」の展覧会場で、俊が出会った老婆の体験談をもとに描かれました。「二度と繰り返してはならない」という作者の強い願いが、私たちの心に訴えかけてきます。
『なぜ あらそうの?』
『なぜ あらそうの?』
ニコライ・ポポフ 作
出版社BL出版 出版年 1995年
カエルが白い花を手に微笑んでいます。突然あらわれたネズミが、その花を奪い取ってしまいました。カエルの仲間が飛んできて花を取り返すと、こんどはネズミたちが武器を積んで仕返しにやってきます。美しい風景の中を、仲間同士が団結し、その顔には笑みを浮かべて、敵に向かっていく様子が不気味です。仲間を増やしながらカエルとネズミの争いはどんどんエスカレートしていきます。青い空と緑の草原はしだいに戦場と化し、とうとう、みんな壊れて燃えて、灰色の世界になってしまいました。 絵だけで展開されていくこの絵本は、「戦争が何の意味もないことや、人はくだらないあらそいの輪のなかにかんたんに巻きこまれてしまうということを知ってほしい」と、作者ポポフが幼いころに体験した戦争で、心に深く刻んできた思いを込めて描かれました。