美術館だより
東京館

- No.176 2012.3.1
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ 「乳母車をおす女の子」 1969年 女の子と乳母車、あかちゃんとくまのぬいぐるみを、ほぼ真上からのアングルで描いており、映画の一シーンを思わせる、不思議な絵です。絵本『あかちゃんのくるひ』の最終場面のこの絵には、それまで別々に登場してきた主人公の少女、彼女の大事にしてきたくま、そして、新たにやってきた弟のあかちゃんが皆一緒に描かれ、お姉さんとなった少女のやさしさや喜びが静かに表現されています。まるで光のなかを歩んでいるようにも見える、まっ白な背景のなかの2人(と1匹)は、これから紡がれるであろう新たな物語の流れに向かい、進んでいくのでしょうか。

- No.175 2011.10.26
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ「スキーをする少年」1969年 - 女学校のころよりスキーに親しんでいたちひろは、スキーをする子どもたちの姿をいくつもの作品に残しました。この絵はカレンダーのために描かれたもので、雪の斜面をスキーで滑走する少年の姿が躍動的にとらえられています。白い雪原を描くのに、水彩のにじみを生かす「たらしこみ」の技法を用いて、白や青、グレーや薄紫といった色を複雑ににじませ、雪の質感や冷たさを表現しています。筆を振って白い絵の具を飛び散らせるようにして描いた雪煙が、画面にいっそうのスピード感を与えています。雪の寒色系の色調と、少年の帽子と服の鮮やかな赤と黒とが、美しい色の対比をみせる作品です。

- No.174 2011.7.15
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ チューリップとあかちゃん 1971年 - あかちゃんの手足のくびれや、ふっくらとしたやわらかな肌の質感が、水彩の微妙なにじみと濃淡で描かれています。技法には、線を描かず色のにじみで形を表す「没骨法(もっこつほう)」が使われており、手や足、口もとにそえられた指先は、絵の具のたまりを利用して、しっかりとした輪郭を形づくっています。一方、やわらかな腹部やお尻は、水分を絞った筆で絵の具を吸い取ったり淡くぼかしたりして、まわりの空気と溶け込むように描いています。頬、膝や肘にほどこされた赤味は、透き通るような肌を通して、みずみずしい生命を感じさせます。未来に生きるあかちゃんの姿を、花のつぼみと重ね合わせています。

- No.173 2011.05.13
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ 花のなかから生まれたおやゆび姫 1966年 - アンデルセンの童話を絵本にした『おやゆび姫』(ひかりのくに昭和出版1966年/改訂版 講談社1984年より)の一場面です。花のなかから生まれた小さなお姫さまは、花が大好きだったちひろに、豊かなイメージを与えたのでしょう。1953年から童話集や絵本、カレンダーなどに、少なくとも7回はこの童話を題材に描かれています。「いろいろなおひめさま、また魔女たちに、わたしは、それぞれのイメージをつくり、それをすこしずつ発展させながら、なんかいかいたことだろう。なんかいかいても、なお工夫するたのしさを、わたしはいまだに失わないでいる。」と、ちひろは語っていました。

- No.172 2011.3.1
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ こげ茶色の帽子の少女 1970年代前半 - やさしい色のリボンがついたこげ茶色の帽子、襟つきのオーバーコート、ストラップシューズ。よそゆきのおしゃれをしたこの少女は、どこにいるのでしょうか。ドキドキする気持ちを抑えるように、ワインレッドの手袋をはめた手はひざの上でしっかりと組まれています。一文字にむすばれた口元にわずかに笑みをたたえ、まっすぐに前を見つめる瞳は好奇心で輝き、頬は紅潮しています。黒柳徹子は「窓ぎわのトットちゃん」第1回連載時、新しい学校、トモエ学園に向かった幼い日の自分に重ねて、この少女像を選びました。現在この少女は、単行本の表紙にも使われ、“トットちゃん”として親しまれています。

- No.171 2010.11.17
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ 「プレゼント」 1969年 - 3本のろうそくを前に、プレゼントを手にした少女が静かにたたずんでいます。色のにじみを背景に人物を白く抜いて浮かび上がらせる手法は、1968年以降のちひろの作品によくみられる特徴のひとつです。背景には黒、紫や赤などの色調が画面全体をおおい、ところどころにピンク、水色、オレンジ、黄色といた明るい色が複雑ににじんでいます。ろうそくの灯りだけがともる暗い室内で、色とりどりに明滅するイルミネーションを思わせます。少女、ろうそく、右上にかすかに描かれた椅子など、白抜きの溶け込むような輪郭とあいまって、幻想的な印象をあたえています。

- No.170 2010.9.15
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ「木の葉のなかの少女」1966年 - 絵雑誌「こどものせかい」11月号表紙絵として描かれた作品です。「十一月になるとある日突然、目がさめるように庭が明るくなる。銀杏の葉が真黄いろに なっていっせいに庭に散り敷くからである。それは雪の日の朝の感動に似た、秋の日のひとときの思いがけないよろこびである。」と、ちひろはある文章のなか に書いたことがありました。この絵では銀杏のほかに、紅葉や野葡萄、樫などのバリエーションに富んだ木の葉が、少女の周囲を埋め尽くすように構成されてい ます。色や形の違う木の葉一枚一枚を手にとってながめ、その葉に想いを寄せたちひろの姿が見えてくるような気がします。

- No.169 2010.7.14
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ 「ピンクのワンピースを着た少女」1970年 - 勢いのあるパステルの筆致によって、最小限の線だけで、すばやく少女の姿をとらえています。この時期に描いたパステル作品に、やはり正面を向いた少年を描 いたものがありますが、顔の輪郭、目と鼻と口の位置、目の大きさや口の線の微妙な曲がり具合までもが、この少女の絵とぴったりと重なりあいます。細かい描 写をそぎ落とし、簡略化していくうちに、理想とする子どもの顔のバランスができあがったのでしょう。迷いのない、のびやかな線からは、自分の頭のなかにあ る確固としたイメージを、ほとんど狂いなく伝えることができた、画家の確かな手が感じられます。

- No.168 2010.5.12
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ 「黄色い傘の子どもたち」1971年 - ちひろの絵では、地面を意識させることはほとんどありませんが、雨の日は例外です。ぬれた道路や水たまりは水鏡となって、子どもたちの長靴や傘などまわり の色を淡く映し出しています。「水彩って、ものすごく質のいいものなのよ。水に溶けるものなのよ」と語り、透明水彩を愛用していたちひろにとって、雨の日 の水に潤んだ情景は、水彩の特性を生かせる格好のテーマだったにちがいありません。黄色い傘を、角度や大きさを変えてリズミカルに配置し、雨の日ならでは の遊びに興じる子どもたちの姿を生き生きととらえています。傘をまわし、水しぶきをあげる歓声までが聞こえてきそうです。

- No.167 2010.3.1
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ 「草むらの小鳥と少女」1971年 - 春のやわらかな緑のなかで、少女は息をひそめて鳥に近づき、心を伝えるように、手折った花をそっとさしだしています。少女がもう一歩、近づいたなら、小鳥 は驚いてサッと飛び立ってしまうかもしれません。そんな一瞬の光景をとらえたこの絵からは、少女と小鳥の間に吹き抜けるやさしい春のそよ風までも感じられ ます。画面左側に鉛筆で大きく描かれたナズナは、異なる画面を重ね合わせる映像の手法のように、私たちを春の野山へといざなう役目を果たしています。そし て、その後方に描かれた小鳥のくちばしと、少女が手に持ち、髪に飾った花の黄色が画面に軽やかなリズムを生み出しています。

- No.166 2010.11.18
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ 「雪の幻想」1971年 - 1966年にちひろは黒姫高原に山荘を建て、その山荘のことを春夏秋は「野花(やか)亭」、冬は「雪雫(せっか)亭」と呼んでいました。ちひろは黒姫での 時間を愛し、野山の散策に出かけては、野うさぎやリス、山鳥などを見かけることもあったといいます。この絵には、かすれを生かした大胆な黒を背景に、山小 屋風の建物、うさぎやリスといった山の動物が描かれていて、雪にうもれた冬の黒姫とイメージが重なるようです。無造作に描いた動物たちが、幼い子の空想の 世界にふさわしい雰囲気を作り出していて、自由に生き生きと動き回っているように見えます。

- No.165 2009.9.9
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ 「お母さんと湯あがりのあかちゃん」1971年 - 「母親像を描くときも、やさしくない母親は描けないんです。母性そのものみたいな感じで、子どもの横につけるときにはそれをつけないわけにはいかない。」 とちひろは語っています。ちひろの絵には多くの母子像があるように感じられますが、実際に母親の姿を描いた作品は数えるほどしかありません。その姿もとき に後ろ姿やシルエット、手だけだったりするものが多いのですが、あかちゃんや子どもだけが描かれた作品にも、その子を見守る母親の存在が感じられます。慈 愛に包まれたあかちゃんの絵からは、最も弱いもの、無垢なものを守らなければならないという、ちひろの思いが伝わってきます。

- No.164 2009.7.10
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ 「紫色の馬と少女」1971年 - ふっくらとした頬の横顔にあどけなさが残るこの少女は、何を想っているのでしょうか。一瞬の風が運んできた緑の香りに、草原を駆けめぐる馬を空想している のかもしれません。長野県松本市にあったちひろの父の郷里では、一頭の馬を飼っていました。この絵には、ちひろが幼い頃にふれあった馬との思い出が重ね合 わされているのでしょう。 ちひろが愛した画家、マリー・ローランサンも絵のなかに乙女たちとともに度々、馬を描きました。とりわけ、牝の仔馬の健気な姿を好んでいたといいます。

- No.163 2010.5.13
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ 「木の葉のなかの少女」1966年 - 勢いのあるパステルの筆致によって、最小限の線だけで、すばやく少女の姿をとらえています。この時期に描いたパステル作品に、やはり正面を向いた少年を描 いたものがありますが、顔の輪郭、目と鼻と口の位置、目の大きさや口の線の微妙な曲がり具合までもが、この少女の絵とぴったりと重なりあいます。細かい描 写をそぎ落とし、簡略化していくうちに、理想とする子どもの顔のバランスができあがったのでしょう。迷いのない、のびやかな線からは、自分の頭のなかにあ る確固としたイメージを、ほとんど狂いなく伝えることができた、画家の確かな手が感じられます。

- No.162 2009.3.1
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ 「ガーベラを持つ少女」1970年頃 - この絵のなかでは、少女の横顔とガーベラに焦点が当てられています。その他の部分は、細かな描写を省略して、わずかな鉛筆線だけで輪郭を示し、淡い色調 で、紙の地の白い部分を活かして描かれています。ガーベラの鮮やかな赤と少女の瞳が重なり合い、少女の胸の内にある清新な想いが伝わってきます。そして、 少し大人びた横顔の表情は、彼女が幼い時期を脱して、さまざまなことを細やかに感受する心を育んでいることを示しています。 自作の詩のなかで「子どもははじめて知るこの世のふしぎにいつもそのまぁるいひとみを輝かす」と記したちひろ。子どもたちのやわらかな心を花に託して描い ています。

- No.161 2008.12.3
- 【表紙の作品】
「中臣宅守(なかとみのやかもり)」1970年 『万葉のうた』より - 女学校を出たころに斉藤茂吉の『万葉秀歌』を愛読し、また藤原行成流の和歌の散らし書きで親しんだ万葉集は、ちひろにとって青春の文学でした。ひざを抱え て座るのは、身分ちがいの恋のために越前の国に流された中臣宅守です。「塵泥の数にもあらぬわれ故に思ひわぶらむ妹が悲しさ」(ちりや泥のようにつまらな い自分のために、つらい思いをしているだろう彼女のことを思うと悲しい)。流刑地にありながら恋人の身を案じる宅守の謙虚で温厚な人柄を、ちひろは端正な 横顔で表現しています。人物をおおうように背景に広がる墨の濃淡が、悲恋の哀愁にくれる宅守の心情を暗示しているようです。

- No.160 2008.9.26
- 【表紙の作品】
「風船とまい上がるパスカル」1968年 『あかいふうせん』より - 風船のひもをしっかりにぎり、やわらかな髪を風になびかせて、少年は空高く上っていきます。頬を染め、口元に微笑を浮かべた彼の表情から、何事からも自由 でいることへの誇らしさが感じられます。この絵は、絵本『あかいふうせん』の最後の場面です。少年と風船の心の交流を描いたこの絵本は、同名のフランス映 画をもとに作られました。映画と同様に、少年がグレーの服を着ていることで、風船の鮮やかな色彩が際立って見えます。しかし、映画とは異なり、ちひろはこ の少年に黄色い靴下を履かせています。その色は、画面右上と中央にある黄色い風船と照応し、画面に軽やかなリズムを生み出しています。

- No.159 2008.7.11
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ 「赤い胸あてスボンの少女」1971年 - 紫色の大きなつば広帽子に、白の半そでシャツ、サロペットの赤い半ズボン――スカート姿の女の子の多いちひろの絵のなかでは、とびきりボーイッシュなスタ イルの女の子です。この子は、どこにいるのでしょう?海?山?それとも近所の公園?今まさに、友だちといっしょにプールにでかけていくところかもしれませ ん。ちひろの後期の作品には、色数を抑え、紙の白地をいかした作品が多く見られます。この絵も使用している絵の具は五色程ですが、水分を加減して微妙な濃 淡を出し、色に変化をつけています。背景の余白が、見る人の自由な想像を呼び覚まします。

- No.158 2008.5.9
- 【表紙の作品】
いわさきちひろ 「緑の風のなかで」1973年 - 雑誌「子どものしあわせ」1973年5月号の表紙を飾った作品です。五月といえば新緑の美しい季節、「若葉風」「青葉風」「青嵐」など、若葉を吹き渡る風 を表した季語が多くあります。新緑の爽やかな光と風を、水彩の淡い緑で鮮やかに表現したこの作品には、「風薫る」という季語がよく合います。少女の髪をな びかせ、風は少女の前方から吹いてきています。後ろ姿で描かれているため、人は少女に自分を重ねてみることができます。絵の前に立つとき、新緑の色や香り をも含んだ風が吹き寄せてくるような印象を受けるのもそのためです。黄色い花がワンポイントになって、緑の鮮やかさを引き立ています。

- No.157 2008.2.25
- 【表紙の作品】
「カーテンにかくれる少女」1968年 『あめのひのおるすばん』(至光社)より - 「びりりん びりりん かくれても だめ きこえちゃう」 雨の日、ひとりで留守番をする女の子の気持ちを描いた絵本『あめのひのおるすばん』の一場面です。しんと静まり返った部屋のなかで、突然電話の音が鳴り響 きます。部屋の内部の描写は省かれていますが、カーテンに隠れた女の子と、コードのよじれた黒電話、飛びすさる猫の微妙な位置関係や、背景ににじんで広が るグレーの色面が、空間に漂う不安と緊張を伝えてきます。カーテンの複雑な青の色は、絵の具を水で洗い落としては、また塗り重ねることを繰り返して出した といいます。













