美術館だより

安曇野館

No.88 2016.9.16
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「秋の花と子どもたち」1965年

桔梗や秋桜、彼岸花……、秋の花々と子どもを描いたこの絵は、絵雑誌「キンダーブック」に掲載された作品です。1950年代から1960年代半ばのちひろの主な仕事は絵雑誌でした。ちひろは幼少期に、大正時代を代表する子どものための絵雑誌「コドモノクニ」のモダンな世界にあこがれたといいます。戦後、自らも画家になり、日本童画会に加盟したちひろは、「コドモノクニ」の画家だった武井武雄、初山滋に会った日のことを「ああこの先生方の絵で私は大きくなったのだ。私の心のなかには、幼い日見た絵本の絵がまだ生きつづけている」と語っています。

No.87 2016.7.1
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「野原に並ぶ子どもたち」1969年 絵雑誌「子どものせかい」より

屋外に沢山の子どもたちが集まっています。よく見ると、ほとんどの子どもはこちらに背を向けていて、遠景に男の子がひとり、少し緊張した顔で立っています。どうやら皆は、彼を呼んでいるのか、待っているようです。緑色の濃淡と、わずかばかりの白、黄色、青の他は、鉛筆線のみで子どもたちを表現しているこの作品は、最初、まどみちおの詩にちひろが描いたものです。「きみおいで/いっしょに/やまびこ/よぼう/みんなで/よばないと/まねしないんだ/おいで きみ/はやく はやく」今月オープンするトットちゃん広場にも、子どもたちの声がこだまするのでしょうか。

No.86 2016.4.28
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「キエフ 老人たち」1963年

1963年7月7日、ちひろは旧ソビエトへの旅程で、ポーランドに隣接するキエフに滞在します。東欧最古の都市としての歴史を持ち、「ロシアのパリ」と呼ばれる街の印象を、「ソヴィエトで一番美しい町といわれているキエフにまいりました。町というものがこんなにきれいにできているなんて思いがけないことでした」と記しています。街角で見かけたベンチで憩う老人たちの姿を、ちひろは愛情のこもったまなざしで素早くスケッチに描きとめました。背中合わせの二人を中心にして、一人ひとりの表情や仕草をいきいきととらえた画面からは、四人の人間模様が垣間見え、会話までもが聞こえてきそうです。

No.85 2016.2.20
【表紙の作品】
いわさきちひろ「花の精」1970年頃

頬杖をついた少女と赤や黄のひなげし。重なりあう花の形や質感は水彩絵の具の濃淡とにじみで表現されています。おさげ髪の先にくっきりと結んだりぼんと、少女の右辺に差した花影のような淡い水色が、柔らかに広がる画面のなかにも奥行きのある空間を生み出しています。少女を包みこむような花々は花冠のようでもあり、少女が花の化身、花の精のようにも見えてきます。透けるようなひなげしの花びらに、繊細で感受性豊かな少女の心を重ねて描いたこの作品は、華やかな色合いを持ちながらもどこか静謐さを漂わせています。ちひろ自身、子どものころの柔らかな感性を生涯持ち続けた人でした。

No.84 2015.9.14
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「ぶどうを持つ少女」 1973年

一房のぶどうを持つ少女。夏を謳歌した名残でしょうか、肌は小麦色で描かれています。ぶどうの芯をそっとつまんでいる指先はほんのりピンクに染まり、少女のあたたかな体温が感じられます。

ちひろの描く子どもは、愛らしい顔やつぶらな瞳が印象的ですが、手の表現も隠れた魅力のひとつです。ちひろのアトリエの画机には、いつも鏡が置かれていて、制作中に自分の手を映し、デッサンを確かめることもありました。

手の大きさや形からは、少し大人びてきた少女の年齢がうかがえるとともに、ぶどうを慈しむように持つ手のしぐさからは、少女の心情までもが伝わってくるようです。

No.83 2015.7.1
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「机に向かう少年」 1970年

周りが散らかるのも気にせず一心に机に向かっている男の子。この子は、小学一年生の社会の副読本『たろうとはなこ』の主人公の「たろう」です。ちひろはこの学校教材の編集に深く関わり、一冊の絵本をつくるように物語性をもたせ、全場面に絵を描きました。ちひろは当初、たろうが「家族の予定表」をつくっている姿としてこの絵を描きましたが、それから四十年余りが経った今、絵はことばから離れ、もっと自由な見方がされています。男の子が後ろ姿でいるために、どんな表情をしているのか、なにを書いているのかも想像がふくらみます。

この絵を使った「いわさきちひろ×佐藤卓」のコラボレーション作品が出品されます(3頁・図9)

No.82 2015.4.27
【表紙の作品】
いわさきちひろ「蝶とあかちゃん」1971年

目の前を舞う色とりどりの蝶を見つめる後ろ姿のあかちゃん。小さな指、大きな頭、柔らかな髪、むちむちとした肌・・・・・・、やっと自分の足で立てるようになったばかりと思われるあかちゃんの特徴を捉えたこの絵からは、子どもの月齢の違いも描きわけることができたといわれるちひろのデッサン力とともに、母としてのあたたかなまなざしが感じられます。
ちひろは、ものの大きさを自由に変えて描くこともよくありました。現実よりも大きく描かれた蝶は、小さなあかちゃんの目に映る世界であると同時に、美しい蝶の舞に心躍らせる好奇心を表現しているかのようです。

No.81 2015.2.13
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「赤い胸あてズボンの少女」1971年

赤いサロペット姿の少女が描かれたこの絵は、1971年、月刊誌「子どものしあわせ」7月号の表紙のために制作された作品です。ちひろは、両手を上げて足を大きく踏み出した、少女の一瞬の動きを捉えています。背景やシャツ、髪など、画面には白が多く用いられ、少女の体に降り注ぐ夏の強い日差しが感じられるようです。幼いころ、毎年のように両親の郷里・信州へ行き、大好きな絵の宿題を忘れるほどに夏休みを満喫したちひろ。「子どもを描いていると、自分の小さいときのことを自分で描いているという感じがします」と自ら語ったように、少女は、子どもの心を持ち続けたちひろの姿とも重なります。

No.80 2014.9.5
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「あやめ」1968年

よくもみ込んだ紙の上に、水をたっぷりふくませた筆で、紫や赤紫、ピンクの色を複雑ににじませて、雨にぬれたあやめが表現されています。絵本『あめのひのおるすばん』のために描かれた作品で、もみ紙の手法は、幼いときの遊びから発想を得たものでした。ちひろはこの絵本のなかで、印刷技術も利用しながら実験的な技法を色々と試しています。「印刷物として子どもが手にする絵本を、版画と同じように、商品ではなく、一冊一冊が第二芸術といえるような質をもった作品」にしたいと考えていた至光社の編集者・武市八十雄は、製版や印刷にも最高の水準を求め、ちひろの新たな絵本づくりに応えました。

No.79 2014.7.11
【表紙の作品】
「つば広帽子の少女」 1971年

勢いのあるパステルの筆致によって、帽子をかぶった少女の顔が正面からとらえられています。ちひろは、ほぼ1970年に集中してパステルの作品を描いています。この時期、器用にまとまってしまう画風を打ち破ろうと、ちひろは新たな画材であるパステルに挑戦します。顔料の粒子を棒状に固めたパステルは、細かな描写には不向きで、細部へのこだわりを捨てるうえで格好の画材でした。パステルによる線描表現は、これまでにない大胆でのびやかなストロークを生み出しました。帽子や髪の毛、瞳に用いられているオリーブグリーンは、人物の輪郭線などに特に好んで使った色です。


No.78 2014.4.21
【表紙の作品】
「踊るカーレン」『あかいくつ』(偕成社)より 1968年

神への信仰も恩人への恩も忘れ、赤い靴に心を奪われてしまった少女カーレンが、最後は足を切り落とすまで踊り続けるというアンデルセン原作の物語「赤い靴」。1968年に手がけた絵本『あかいくつ』で、ちひろは、画面の外への広がりを感じさせる構図を多く用いました。

靴が脱げなくなり、踊りながら街へと出ていく場面では、青い背景のなかに、画面上部から登場し、中央で回転しながら、下へと通り抜けていく3体のカーレンの姿を描いています。1枚の絵のなかに、時間と動きを取り入れることで、悲しくも美しい少女のダンスを、映画のワンシーンのように展開させています。

No.77 2014.3.1
【表紙の作品】
「猫とランドセルをしょった子ども」 1969年

白いワンピースに、切りそろえられたおかっぱ頭、真新しい赤のランドセル……。入学したばかりでしょうか、男の子の声に、ふと立ち止まる少女の姿が描かれています。

9450点ものちひろの作品が遺されていることを知り、『窓ぎわのトットちゃん』の執筆を決意した黒柳徹子は、トモエ学園に初登校する日のエピソードに、この作品を選びました。背景に使われた黄色いにじみからは、春の陽光のあたたかさとともに、期待と喜び、不安で小さな胸をいっぱいにする、みずみずしい子どもの心までもが感じられます。


No.76 2013.9.20
【表紙の作品】
「ストーブに薪をくべる少女」 1973年

少し上体を傾け、床に手を伸ばして取ったのは、山で採ってきた枝でしょうか。目は扉の開いたストーブのなかの火に向けられ、火の加減を見ながら思案しているようです。少女の頬は、焔の熱でほんのりと赤く染まっています。

ちひろが黒姫高原にアトリエを兼ねた山荘を建てたのは一九六六年のこと。木々に囲まれた空間のなかで、絵本の構想を練って描いたり、家族とのひとときを楽しんだり。東京のアトリエとはまた異なった時間を過ごしました。描かれたストーブは、黒姫のアトリエに実際にあったもの。この上でシチューを煮込むなど、山の中の生活には大切な存在でした。


No.75 2013.7.12
【表紙の作品】
「やぎと男の子」1969年

赤、青、黄色、紫……、色とりどりのにじみが、やぎと向かい合う男の子の周りに広がっています。1951年、ちひろは一人息子の猛をもうけました。当時、夫は司法試験のための勉強中で、ちひろは自らの絵筆一本で家計を支えるため、やむなく1カ月半の息子を長野県の松川村の両親に預け、お金を貯めては会いに行く生活が10カ月近く続きました。ちひろの両親のもとで、猛は飼っていたやぎの乳で育てられたといいます。その後も、ちひろは家族とともに、信州の実家を何度も訪れています。息子・猛に重なる男の子を包み込んでいるやわらかなにじみは、ちひろの母としての愛情にも感じられます。

No.74 2013.5.10
【表紙の作品】
「あめ」『トッパンの童謡絵本7』 1960年頃

 「あめが ふります/あめが ふる/あそびに いきたし/かさは なし/べにおの かっこも/おが きれた/あめが ふります/あめが ふる/いやでも おうちで/あそびましょう/ちよがみ おりましょう/たたみましょう」

北原白秋の童謡「あめ」のために描かれた作品です。ちゃぶ台の上の色とりどりの千代紙と少女の髪の毛を結わえた赤と黄色のリボンが、画面のバランスをうまく保ち、アクセントになっています。少女は頬杖をつき、こちらをじっと見つめ、何を思うのでしょう。背景の青や紫の微妙な色合いの筋は、雨だれを思わせると同時に、物思いにふける少女の心情を映し出しているかのようです。

No.73 2013.3.1
【表紙の作品】
「少女」 1970年頃(塩尻市蔵)
1971年に、ちひろが塩尻市児童館(当時)へ寄贈し、昨年、塩尻市で発見された作品です。ちひろは、1970年、集中的にパステル画を描きました。顔料を固めた画材・パステルを線描に用い、大きな腕のストロークで描いています。この描法は、後の水彩画の大胆な筆勢を生み出すきっかけとなりました。この作品では、頬や耳、口元を桃色に染め、首を少し傾げた少女のいきいきとした表情が、パステルにかける力や、線の勢いを巧みに変えながらわずかな線描で、豊かに描かれています。
No.72 2012.9.21
【表紙の作品】
「和服の少女」 1971年
一月のカレンダーを飾った絵で、右上から左下に「あまつ風 雲のかよひじ ふきとぢよ をとめのすがた しばしとどめん」の歌が書き込まれています。少女の愛らしい姿をとどめておきたいという思いを、この歌に重ねたのでしょう。また「あひ見ての のちのこころに くらぶれば むかしはものを おもはざりけり」の、上の句の一部があまつ風の歌の下に、下の句が画面左上に読み取れます。ちひろは18歳より藤原行成流の和仮名を習い、師の代稽古を務めるほどの腕前でした。流麗な筆運び、線や形の美しさ、絵と文字との絶妙なバランスにみる余白の扱いなど、書で培われた美意識が生かされています。
No.71 2012.7.13
【表紙の作品】
いわさきちひろ 青いつば広帽子を持つ少女 1969年
青いつば広の帽子を持って、遠くをみつめる少女。流麗な鉛筆の線で描かれた髪やワンピースは後方になびき、初夏のさわやかな風を受けて立っているようです。この作品は、黒柳徹子とちひろ美術館初代館長・飯沢匡(ただす)がちひろの人生を調査し、執筆した共著『つば広の帽子をかぶって』の表紙に使われた絵です。黒柳は、「あの可愛らしい絵は、実は、たくさんの悲しみ苦しみ、修羅場があったからこそ、ちひろさんが描かずにはいられなかった世界なのではないか」と語っています。ちひろの好きだった帽子を手にして、もの思うようなまなざしを見せるこの少女は、ちひろ自身の姿にも重なって見えます。
No.70 2012.5.11
【表紙の作品】
いわさきちひろ「ひなげしと子ども」1969年
ひなげしの薄い花びらが重なり合い、燃えるように鮮やかな朱色や赤の色の層をつくりだしています。その花びらを透かして、左側にはガーベラの茎が縦に伸びているのが見えます。色を重ねたときに、下の色が透けて見える透明水彩の特性を存分に生かした表現で、ひなげしの花びらの薄さがいっそう際立ちます。花が透けているのは、背後から光が差し込んでくるからでしょう。ちひろは窓辺にひなげしの花を飾り、花にふりそそぐ光の表情をながめていたのかもしれません。薄い花びらの質感に加えて、ところどころに鉛筆で花のシベを描き込むことで、ひなげしの花らしさをリアルに表現しています。
No.69 2012.3.1
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「花の天使たち」 1967年
色とりどりの花と、楽しげに飛ぶ天使たち。この絵は、絵雑誌「こどものせかい」に掲載された文章、「てんとちをつなぐはしご」(蔵冨千鶴子・文)のために描かれました。旧約聖書・創世記に記述のある、天から地上へのはしごを天使が昇り降りするという情景です。段の描かれていないはしごは、チューリップ、スイートピー、ひなげしなど、さまざまな花に彩られて、光の道のよう。透けるような薄い羽を持つ天使たちが、両手を広げたり、追いかけっこのような仕草を見せたりしながら飛ぶ姿を、いきいきととらえています。あたたかな季節の空気が感じられるとともに、天使たちの笑い声も聞こえてくるようです。
No.68 2011.9.16
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「あんよはじょうず」 1960年代後半

「あんよはじょうず ころぶはおへた」……。歩き出したばかりの男の子を見守る女の子はお姉さんでしょうか。しゃがんで彼の高さに目線を合わせ、微笑みながら、手を少し差し出しています。

 手前に咲く桔梗(ききょう)、コスモスなどの草花から季節が秋だとわかります。花々も、この様子を楽しげに応援しながら見ているようです。

 一歩一歩足を踏み出していく幼子を見つめているのは、左側の少女でもあり、花々でもあり、絵を見ている私たちでもあります。そして、絵を描いたちひろの画家としての、母としてのまなざしが、その全体を包んでいるようにも思えます。

No.67 2011.7.15
【表紙の作品】
いわさきちひろ 夏の宵の白い花と子ども 1969年

夏祭りの日の出来事でしょうか。蛍を見に出かけた道の途中でしょうか。後ろ姿の少女が、小さな提灯を持った手を前に出し、片足をわずかに上げています。歩いている最中に、知り合いの男の子に声をかけられて、ふと立ち止まったところかもしれません。日中の暑さが過ぎ去った後の、ほの明るい闇のなか、白く可憐な花々に囲まれた2人だけの世界が浮かび上がります。女の子の浴衣の帯と下駄の鼻緒に使われた、はっとするような鮮明な赤が、青い背景の涼やかな印象を際立たせています。

No.66 2011.5.13
【表紙の作品】
いわさきちひろ トレド 石畳の道を歩く女性 1966年
1966年4月7日、ヨーロッパをめぐる旅行のなかで、ちひろは中世の街並みを残すスペイン・トレドを訪れました。古い石造りの建物や装飾の施されたバルコニー、細く曲がりくねった石畳の道……。この作品は、「街全体が博物館」と称され、世界遺産(1986年)にも登録された歴史ある街トレドの一角をスケッチしたものです。ちひろは、家族への手紙に、「こんなに素晴らしいところは、いままでみたこともありません」と記しています。気負いのない流麗な線で描かれたスケッチからは、古都トレドに息づく現代の人々の暮らしに触れたちひろの感動が伝わってくるようです。
No.65 2011.3.1
【表紙の作品】
いわさきちひろ 緑の風のなかの少女 1972年

大きな麦わら帽子をかぶり、日に焼けた肌にさわやかな風を受けながら、まっすぐに前を見つめている少女。水彩絵の具の濃淡を活かして描かれた緑色の背景は、新緑の木々を通して降り注ぐ木漏れ日を感じさせます。幼い頃、毎年のように訪れていた信州は、ちひろにとって心のふるさとでした。福井に生まれ、東京で育ちながらも、自らを“信州人”と語るほどこの地を愛していたちひろは、信州での思い出を髣髴とさせる作品を描いています。

この絵の少女にも、豊かな信州の自然のなかで、夏休みを思いきり謳歌していた頃のちひろの姿を見ることができます。

No.64 2010.11.17
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「ちら ちら こゆき」 1958年

色鮮やかな手袋を片方外し、空に手をかざす少女。掌に落ちてきた雪の美しさを伝えようと振り向いたのでしょうか。つぶらな瞳の少女は、少し微笑んでいるように見えます。1950~60年代にかけて、ちひろの主な仕事だった月刊絵雑誌では、絵は詩や文章とともに掲載されることが多く、この作品も次の詩と合わせて発表されました。「ちら/ちら/こゆき/かわいい/ちょうちょ/ひら/ひら/とんで/おててに/おりて/ひらりと/とまれ/ひらりと/とまれ」雪を蝶にたとえた都筑益世の詩から想像を広げ、この作品では少女のまわりを舞う“雪花(せっか)”*が可憐に描きだされています。

*雪花=雪の結晶 

No.63 2010.9.15
【表紙の作品】
いわさきちひろ「かわいいかくれんぼ」1965年
首を傾げる少女の目線の先には、枯れ葉に隠れて、ひよこの足と尻尾が見えます。左上にも、小犬の尻尾がちらり。同名の童謡に歌われたかくれんぼの世界を、 画家は、枯れ葉が秋風に舞う情景のなかに描きました。横方向に入った鉛筆線は、秋風が軽やかに吹く様子を感じさせます。花と枯れ葉が織り成す秋の色は暖色 系で落ち着いていますが、そこにアクセントを加えているのが少女の服装です。ちひろは花嫁修業で洋裁を学び、疎開先では注文を受けるほどの腕前でした。少 女が身に着けている真っ赤な長靴とリボン、紫のドットがかわいらしいワンピースやブローチには、そんなちひろのファッションセンスを垣間見ることができます。
No.62 2010.7.14
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「オウムの家」1969年
色とりどりに咲く花と、飛び交う鳥たち。画面の下部には、鉛筆で描かれた家の見取り図が見えます。この絵は、雑誌「ペットのあるくらし」に収録された童話 「オウムの家」のために描かれました。物語は、鳥カゴのなかのオウムがカラーテレビで南の島をみたためにふるさとを思い出して不平をいい、「わたし」がオ ウムのための家を考えてあげる、というもの。ちひろは理想郷としての南の島の情景を、画面いっぱいの花で表現しています。にじみをふんだんに用いた花の鮮 やかさと、白抜きで描かれた鳥のすがたが見事なコントラストをなしていて、色合いの楽しさとともに、ちひろの卓越した水彩の表現力をみることができます。
No.61 2010.5.12
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「ねぎぼうずと麦と子どもたち」1960年代半ば
青々と育つ両脇のねぎぼうずと麦。その間からは3人の子どもたちの姿が見えます。画家はこの作品を、草花とほぼ同じ高さの視点から描きました。これはいわ さきちひろが好んで用いた構図で、まるで草むらへ入り込んだように手前に草花を、奥に子どもの姿を捉えています。ねぎぼうずと麦の生命力あふれるみずみず しさに、ちひろは魅きつけられたのでしょう。ねぎぼうずの力強い線と、しなやかな麦の線は、ともに草間から顔をのぞかせる子どもたちの伸びやかに成長する 姿と重なります。白、黒、黄色の蝶が飛び交い、空はやわらかい色調で黄色やピンク、緑などに彩られて、画面全体が初夏のさわやかな喜びで満たされていま す。
No.60 2010.3.1
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「母の日」1972年
ちひろは「(小さい子どもが)ターッと走ってきてパタッと飛びついてくるでしょ、あの感じなんてすてきです。」と語っていますが、この絵はまさに、幼い子 がカーネーションを渡そうと、お母さんに抱きついてきた感じが見事に表現されています。子どものやわらかな頬の感触、しがみついてくる小さな手の圧力、は ずむような息づかいまでが感じられるようです。母親は後ろ姿で描かれていますが、やさしい表情を想像することもできるでしょう。こんな風に子どもを抱きし めたことがある人は、自らの実感がよみがえるかもしれません。子どもを包み込む淡いピンクの色調が、やさしい母性を象徴しているようです。
No.59 2009.11.18
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「のぼり棒」1970年
休み時間の校庭でしょうか。余裕しゃくしゃくの男の子、両手両足で棒をつかみ真剣な表情の女の子、靴をとばして必死にしがみつく子。体の動きや表情から、 一人一人の性格や身体能力までが感じられます。担当編集者によると、ちひろは「この子は絶対おっこちるわよ」「この子ももう風前の灯よ」と語りながら描い ていたそうです。この絵が収められた「しょうがくしゃかい たろうとはなこ」は、小学1年生の社会科の教科書。検定がなく、製作が比較的自由な副読本とし て、地域社会について楽しく学んでもらいたいと作られました。ちひろがすべての挿絵を担当し、文章やその配置、印刷にも気を配った、自作の絵本に近い作品 です。
No.58 2009.9.9
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「小指を口にあてる少女」1968~9年
縦10センチ程の小さな絵。ちひろはこの絵について「かきちらした小さな画用紙のうらにいたずら描きをしているうちに、わりと気に入った少女の顔ができま した。なんだか捨てがたく小さな額に入れておきました。」と記しています。アトリエに飾ったこの絵を見ながら、ちひろは「このこはどんなことを考え何をし たいのだろうかと考え」ていました。左上の紫色のにじみが、静謐な雰囲気を醸し出し、全体に薄く塗られた茶色は、表情に深みと温かみを与えています。小指 を口元にあて、少女は何を考えているのでしょう。その視線は、宙を見つめているようにも、また深く考えこんでいるようにもみえます。
No.57 2009.7.10
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「海辺のひまわりと少女と小犬」1973年
前景に、黄、薄黄、橙のあざやかな色で大きく描かれた4輪のひまわり。後方には、海で泳ぐたくさんの子どもたち。その中景に、小麦色に肌を焼いた少女と子 犬が砂浜を駆ける姿が描きこまれています。絵本『ぽちのきたうみ』のために描かれたこの作品は、絵本には使われませんでしたが、リズミカルに重なり合うひ まわりの姿は、生命力あふれる姿を表して魅力的です。少女の顔は見えませんが、生き生きと描き出されたひまわりは、大好きな海を前にした少女の躍る心を象 徴するかのようです。画面からは、照りつける太陽や子どもたちの歓声、潮の香りまでも、感じられます。
No.56 2009.5.13
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「チューリップのなかのあかちゃん」1971年
赤い大きなチューリップの花びらからぐいっと身を乗りだすようにして、頬をピンク色に染めこちらを見つめるあかちゃん。花とあかちゃんは、ちひろが好んで 描いたモチーフのひとつですが、花もあかちゃんも、ともに小さないのちの象徴といえます。すっと上に伸びる3色のチューリップは、画面に華やかさを添える とともに力強い生命力と未来への希望を感じさせます。
No.55 2009.3.1
【表紙の作品】
「ののさま だいすき」1971年 絵本『あかちゃんのうた』
画面上にぽっかりと浮かぶ、白く大きなお月さま。輪郭線は描かれず、やわらかな色彩のにじみだけでその外形が捉えられています。月と何か話をしているよう にも見える、うしろ姿の女の子。母親が赤ちゃんに語りかけるような、穏やかな言葉で綴られた、詩の絵本のなかの一場面です。
幼い子を包み込むように、淡くやさしい光を投げかける満月。透明感のある青に、薄緑や紫をさした複雑な色調のにじみの輪は、月の持つ神秘的なイメージや、 夜空の静けさを伝えています。少ない色数のなか用いられた紫の補色の黄色が、女の子の存在を印象づけ、月の光にほのかな温かみを与えています。
No.54 2008.12.3
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「白いマフラーをした緑の帽子の少女」1971年
冬は、手袋やマフラーなど小物が活躍する季節。おしゃれが大好きだったちひろが描く子どもたちも、冬は一段とかわいらしい装いです。この少女も緑の帽子、 白いマフラー、赤い靴には橙のタイツと、ちひろのファッションセンスが存分に発揮されています。また、少女の視線の先に色とりどりの花、その手前には2輪 の青い花、と画面のなかにバランスよく色が配置され、たっぷりとした余白が、少女の服や花の色を際立たせています。カレンダーのための作品ですが、寒い冬 の季節に、ちひろの豊かな色彩は、私たちに暖かさを伝えます。
No.53 2008.9.26
【表紙の作品】
「美登利」1971年 『たけくらべ』より
「廻れば大門の見返り柳いと長けれど、お歯ぐろ溝に燈火うつる三階の騒ぎも手に取る如く......」の名文から始まる『たけくらべ』。ちひろは、この作 品を愛し、日本の文学の中でも優れた青春文学のひとつだと語っていたといいます。 ちひろの描いた『たけくらべ』の特徴は、明治の下町情緒や風物詩の描写に加え、登場する人物にも焦点を当て、心情まで繊細に描き込んでいることです。主人 公・美登利の横顔は、鼻がつんと上を向き、口は堅く閉じていて、瞳はどこか憂いを帯びつつも前を見据えています。勝気で多感、そして芯の強さを秘めた少女 であることが、表情から読み取れます。
No.52 2008.7.11
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「貝と赤い帽子の少年」1970年
ちひろは、太陽の光を受け、様々な色にきらめく夏の海を表現しました。パレットの上で色を混ぜるのではなく、紙の上でいくつかの色をにじませて、色をつ くったり、水を加えて濃淡をつけ、色の明るさを調整しています。色とりどりの貝が散らばり、白抜きの魚が泳ぐ様子は、どことなく幻想的ですが、その中央に 立つ少年の赤い帽子が、少年の存在感を伝え、画面を引き締めています。腰に手をかけ、ちょっとかっこうをつけて立つ少年。向こうを向き、表情は見えません が、少し背伸びをして大人の真似をしたい年頃のわくわくするような夏の楽しい気持ちが伝わってくるようです。
No.51 2008.5.9
【表紙の作品】
「指人形であそぶ子どもたち」1966年 絵雑誌「こどものせかい」
色とりどりの服を着て、思い思いの指人形で遊ぶ3人の子どもたちの周りを、画面の後方、左右から登場している楽器を持った子どもたちが囲んでいます。少し はずかしそうに微笑んだり、高々と人形を掲げたり、足でリズムを取りながらトライアングルを叩いたり......、今にも、絵のなかから演奏の音や笑い声 が聞こえてくるようです。子どもの群像を描くときも、その一人一人に個性を見出しながら描いていたというちひろ。この作品の子どもたちも皆、異なる仕草や 表情を見せ、画家としての鋭い観察力で捉えた子どもの生き生きとした心の動きが描き出されています。
No.50 2008.2.25
【表紙の作品】
いわさきちひろ 「バラにかくれる子ども」1972年
花の部分のみが描かれたバラの陰から、こちらをのぞく男の子と女の子。子どもたちが身につけたシャツや帽子の色は、それぞれ黄色とピンクのバラの色に呼応 しています。ちひろは、花びらの折り重なる影の部分にはオレンジをさし、明るい部分は透明感に溢れた薄い黄色で捉えるなど、全体に淡く澄んだ色調を用い て、花や子どもたちに映る柔らかな陽射しまでを、印象的に描き出しています。バラはちひろが生涯最も多く描いた花のひとつ。自然の光の中で輝く花びらは、 端瑞しい生命力に満ちており、画面から、甘く優しい香りが漂ってくるようです。
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