ちひろの技法

水彩絵の具を駆使し、やわらかで清澄な、独特の色調を生み出したいわさきちひろ。西洋で発達した画材を用いながら、水をたっぷり使ったにじみやぼかし、大胆な筆使いを生かした描法などは、むしろ中国や日本の伝統的な水墨画に近い表現をみることができます。あかちゃんや花びらには、輪郭線を描かずに色のにじみで形を表す「没骨(もっこつ)法」が用いられています。ほかに、先に塗った色が乾く前に別の色をたらして複雑ににじませる「たらし込み」や、筆のかすれたタッチを生かした「渇筆(かっぴつ)法」など、さまざまな技法も使われています。

また、こうした水彩表現とあわせて、線の美しさもちひろの絵の魅力のひとつです。画家を志した20代後半からちひろはデッサンの習練に励み、息子を得てからは成長していく姿を数多くのスケッチに残しました。納得のいくまで線を追求し続けたことが、流麗な線を生み出す原点となっています。ちひろは後年、どんな格好でも人間の形ならモデルなしで描けると語っています。優れた技術に、母親としての愛情と、みずみずしい感受性が融合したところに、ちひろの作品が生まれたといえるでしょう。