愛書総覧 ちひろの本棚

会 期 2016年10月1日(土)~11月30日(水)
場 所 展示室1・2
本棚はその人を映す鏡ともいえます。
ちひろ美術館・東京には、ちひろのアトリエが移築され、再現されています。
画机の後ろにある本棚には、童話集や美術全集、文芸書、図鑑など、ちひろの仕事や趣向をうかがわせる蔵書が当時のまま並んでいます。
本展では、本を手がかりに、ちひろの創作の源泉をさぐります。

宮沢賢治の文学

20代の若い時代に戦争を体験したちひろは、日本が戦争へと進むなか宮沢賢治の童話や詩に出会い、その作品世界と思想に心惹かれました。
終戦直後に書いた26歳のときの日記には、賢治の名前や詩の一節などが度々登場し、後に、この時期の賢治への心境を「命のように大切だった」と語っています。
当時読んでいた本は残っていませんが、戦前に出版された『宮沢賢治名作選』(1935年刊)である可能性が高いと考えられます。
本の冒頭に記された「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という賢治のことばは、「世界中のこどもみんなに平和としあわせを」と願い続けたちひろの生き方にも重なります。
人生を模索する若き日を支えた賢治への思いは、20年以上の時を経て、『花の童話集』として結実しました。自然と対話する賢治のまなざしに自らのまなざしを重ねながら、草花や木などを題材にした6編の童話を描き出しています。
ひなげし 『花の童話集』(童心社)より 1969年

アンデルセンの童話

日本で相次いで童話集や児童文学全集が出版された1950年代から1960年代にかけて、ちひろも「小公女」や「アルプスの少女」など、世界の童話を数多く手がけました。本棚には60冊を超える童話集が並んでいます。
そのなかでも、「百年もの年代の差をこえて、わたしの心に、かわらないうつくしさをなげかけてくれる」と語り、最も愛したのが、アンデルセンの童話でした。
蔵書のなかには、「絵のない絵本」の文庫本が数冊残されています。
貧しい絵描きの青年に、月が夜毎、世界中で見たことを語る物語を、童話集や紙芝居に描いています。1966年には、人生の哀歓を美しく紡いだこの物語を、自らの強い希望で絵本化しました。鉛筆と墨のモノトーンで情感豊かに描き出したこの絵本は、若い世代を対象とした「若い人の絵本」シリーズの第一弾となり、以後ちひろは、娘時代からの愛読書の『たけくらべ』(樋口一葉著)や『万葉集』の絵本化へと意欲的に取り組んで行きます。
雨のなかおつかいにいくセーラ 『幼年世界文学全集22 小公女・トムソーヤの冒険』(偕成社)より 1965年
墓地に腰をおろす道化 『絵のない絵本』(童心社)より 1966年 美登利 『たけくらべ』(童心社)より 1971年

『風姿花伝』

晩年、ちひろは、世阿弥の能芸論書『風姿花伝』を愛読するなど、日本の芸術思想に深い関心を寄せていました。
「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず」の一節を、優れた技術を持った役者の抑えた表現にこそ、深い情趣が現われると捉え、説明的な要素を排して、見る人の想像力を喚起する表現を追求していきます。
「緑の風のなかで」は、亡くなる前年の1973年に制作されました。風景や表情は描かれていませんが、淡い水彩で表現された風や少女の手の仕草は、見る人に、日差しの暖かさや風の音、少女の心情までをも感じさせます。
日本の伝統的な芸術観は、後期の表現を支える根幹となっていたことがわかります。
緑の風のなかで 1973年

展示品数 約60点

関連イベント

安曇野スタイル2016 本のともだち

ミュージアムショップに「本のともだち」コーナーを設けます。
クラフト作家によるブックカバーやしおり、文庫本サイズのバッグなど、
本とともに楽しめるクラフト作品が並びます。

  • 日  程:11/3(木・祝)~11/6(日)

ギャラリートーク

展示室で作品を見ながら、担当学芸員が展示のみどころなどをお話しします。

  • 日  程:10/8(土)・10/22(土)・11/12(土)・11/26(土)
  • 時  間:14:00~14:30
  • 申  込:参加自由(事前申込不要)
  • 料  金:無料(入館料別)
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