ちひろを語るこの一点 「ぶどうを持つ少女」の魅力

期 間 2015年9月26日(土)~11月30日(月)
場 所 展示室1・2
ちひろの代表作のひとつである「ぶどうを持つ少女」。この作品は、自身の集大成となる絵本『ぽちのきたうみ』や『戦火のなかの子どもたち』を手がけるなど、画家として円熟期を迎えた1973年に、絵雑誌「こどものせかい」のために描かれました。同年、有島武郎の童話「一房のぶどう」の挿絵の仕事で、ぶどうを持つ女教師を描いています。これも本作が誕生するきっかけになったと考えられます。
現存する約9450点の作品のなかでも、高い人気を誇るこの作品にはどのような特徴があるのでしょうか。本展では、この一点を手がかりに、ちひろの表現を掘り下げます。
展示画像 ぶどうを持つ少女 1973年 海とふたりの子ども 『ぽちのきたうみ』(至光社)より 1973年

「ちひろの紫」

つば広帽子とぶどうを持つ少女の横顔が描かれたこの作品でまず目を引くのは、紫の豊かな色調です。赤と青の2色からつくられる紫は、各色の割合を変えることで、幅広い色調を表現できる色彩です。
1968年に、ちひろは絵本『あめのひのおるすばん』の制作のなかで、画材別の紫の色味の違いや、ポスターカラーやインクと水彩とのにじみ具合を追求する試し塗りを行いました。本作でも、赤紫の帽子の上に、青紫のリボンを重ね合わせたり、ぶどう一粒一粒の色味や濃淡を変化させ、紫一色のなかに、豊かなバリエーションを生み出しています。

展示画像 『あめのひのおるすばん』試し塗り 1968年

「帽子」

若いころから、帽子はちひろのおしゃれのアイテムでした。作品のなかにも帽子が多く登場し、1970年代には、バラ飾りのある帽子やニット帽なども描いています。ちひろが特に好んだのがつば広帽子でした。愛用した帽子のなかにも、夏用のつば広帽子が残されています。大きなつば広帽子の女性らしく優美なフォルムも、この作品の魅力のひとつです。
展示画像 バラ飾りの帽子の少女 1971年 白い毛糸帽の子ども 1970年

「横顔」

正面を向いた愛らしい表情とは異なり、ちひろの描く横顔の多くは、もの思う独特の雰囲気を湛えています。「子どもを描いていると、自分の小さいときのことを自分で描いているという気がします」と語っていたちひろは、少女時代の瑞々しい感性を持ち続けた稀有な画家でした。また、子育てを通し、わが子の成長を見守ってきた母親でもありました。そんなちひろの描く「子ども」は、大人の考える子ども像ではなく、感情や意志、個性を持った存在として描かれています。微笑にも、憂いを帯びているようにも感じられる横顔からは、少女特有の繊細な感性が感じられます。

「省略の美学」

少女の周りには、余白がたっぷりと取られ、少女の服や背景は描かれていません。1973年に手がけた絵本のダミーに、ちひろは、持ち得る技巧をあえて隠すことで、より深い感銘を生み出すことを目指し、「すてわざ」「せきぼく」の文字を記しました。ちひろが「引き算」と呼んだこの表現は、見るものの想像や思いを受け止める余地を生み出しています。 必要最小限のもので構成された画面には、ちひろが築き上げてきた技法と子どもへの深い思いが秘められています。すでに体調を崩し、入退院を繰り返していた時期に生まれた本作は、生涯にわたり子どもを描き続けたちひろが、最晩年に表現した渾身の一点となっています。

展示品数

約80点

関連イベント

ギャラリートーク

  • 展示室で作品を見ながら、担当学芸員が展示のみどころなどをお話しします。
  • 日程:9/26(土)・10/10(土)・10/24(土)・11/14(土)・11/28(土)
  • 時間:14:00~14:30
  • 申込:参加自由(事前申込不要)
  • 料金:無料(入館料別)
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