〈出版記念展〉ちひろ・夏の画集

期間 2011年7月15日(金)~9月13日(火)
場所 展示室1・2
降り注ぐ日の光。澄み切った青空。きらめく海。長い休みを迎える子どもたちが心躍らせ、まぶしい笑顔を見せる季節――夏。ちひろは、暑い季節に子どもたちが生き生きと遊ぶ姿を、自然が見せる一瞬の表情の美しさとともに、水彩絵の具でみずみずしく表現しました。
『ちひろ・夏の画集』(講談社)の出版を記念して、生命の輝きに満ちた、季節感あふれる作品を紹介します。
貝がらと赤い帽子の少女 1967年

雨の日の子どもたち

雨が降ると、ふだん見慣れた風景がいつもと違う表情を見せます。雨の日の水に潤んだ情景を描くのに、水に溶けやすく、透明感のある色彩を自在に生み出せる水彩絵の具は、格好の画材です。
小さな子どもの目に映る、新鮮な感動に満ちた雨の日の光景を、ちひろは、水彩絵の具のにじみや筆のタッチを生かして、さまざまに描き出しています。
雨の日に一人で留守番する女の子の心の変化を捉えた絵本、『あめのひのおるすばん』。母親の帰りを待ちわびる少女が、曇った窓ガラスに指先で絵を描く場面では、ちひろが好んだ紫の複雑な色調を中心に、青や赤、黄色のにじみが重なり合い、女の子のシルエットを浮かび上がらせています。少女のさみしさとともに、戸外の色を映しこみ繊細な色合いを見せるガラスの様子や、辺りに響くやさしい雨音、湿気を帯びた雨の匂いも、絵から伝わってくるようです。
窓ガラスに絵をかく少女 『あめのひのおるすばん』(至光社)より 1968年

夏休み――『ぽちのきたうみ』

海の近くのおばあちゃんの家に遊びにきた少女の夏休みを描いた『ぽちのきたうみ』は、ちひろが亡くなる前年の1973年に発表した絵本です。主人公の呼び名“ちいちゃん”は、ちひろの幼いころの愛称でもありました。
物語の舞台である海辺の大自然は、ページを追うごとに、光や大気の変化を反映して刻々とその表情を変えていきます。この絵本に見られる雄大な海と空の表現は、ちひろが晩年に切り開いた新たな画境です。イメージをしっかりと固めた上で、筆勢を生かして一気に描き上げる描法は、水彩絵の具を使っているものの、日本の伝統的な水墨画に通じています。
愛犬を置いたまま家を出て来たちいちゃんは、ぽちにも海に来てほしいと心から願います。ようやく出会えた少女と小犬が、はしゃぎながら海辺を駆けるシーン。どこまでも続く水平線の下に広がる、2人だけの空間。柔らかな光に包まれた夕暮れ時の砂浜が、空の薄い赤やオレンジ、黄色などの温かな色合いと、深い海の青を中心とした色使いのなかに表現されています。少女がぽちに対して抱く、限りないやさしさが、画面全体に満ちあふれています。
ちひろとともに、この絵本作りに取り組んだ編集者は、「一冊の絵本が誕生するのに、こんなに貴いときがこめられるのだという実感がそこにありました。まるで砂あそびに夢中になっている子どもたちのように、私たちは没頭したのです」と語っています。ちいちゃんやぽちと一緒に過ごした時間は、ちひろの胸に、幼い日の幸せな夏休みの思い出を再び呼び覚ましてくれたのかもしれません。
子ども時代の夏は、束の間の輝きを持った、美しくも切ない誰にとっても特別な季節。ちひろ自身のかけがえのない夏の記憶も、その絵のひとつひとつに込められています。清々しい季節の印象を、見る人の心に鮮やかに甦らせる、ちひろの夏の世界をご覧ください。
海辺を走る少女と子犬 『ぽちのきたうみ』(至光社)より 1973年



展示品数:約80点

関連イベント

ギャラリートーク

日程 : 7/23(土)、8/13(土)、8/27(土)、9/10(土)
時間 : 14:00~
申込 : 参加自由
料金 : 無料(入館料のみ)
黄色い傘の子どもたち 1971年 夏の宵の白い花と子ども 1969年
前のページへ