ちひろの少女 ―記憶と心象―

期 間 2011年3月1日(火)~5月10日(火)
場 所 展示室1
帽子を被って微笑む少女、後ろ姿のおさげの少女など、ちひろの作品には、多くの少女の姿が見られます。本展では、ちひろが描いた少女像を、“記憶”と“心象”の2つの側面から紹介します。

記憶の情景

「子どもを描いていると、小さいときのことを自分で描いているという感じがします」と語ったように、多くの少女像には幼い頃のちひろ自身の姿が投影されています。
夏には、両親の故郷・信州を訪れ、自然のなかで遊んだり、初山滋やローランサンの絵に心躍らせたり、大好きだった白いワンピースを着たり……。第一次世界大戦終戦の年に生まれたちひろは、太平洋戦争が始まる以前の大正から昭和にかけて、豊かな少女時代を過ごしました。
明るい日差しのなか、裸足の足を少し上げて微笑む少女が描かれた「黄色い背景のなかに座る少女」には、信州の奈良井川で、妹たちと川遊びをしていた頃のちひろの姿が重なります。
自らの人生を大きく方向付けたと語る戦争体験を経て、「平和で、豊かで、美しく、可愛いものがほんとうに好きで、そういうものをこわしていこうとする力に限りない憤りを感じます」と語ったちひろ。ちひろは少女像のなかに、かつて過ごした平和で豊かな時間と、美しく可愛い、無垢なる輝きを見出していたのではないでしょうか。

絵本『あかちゃんのくるひ』

『あかちゃんのくるひ』は、ちひろの幼少期と同じ呼び名を持つ“ちぃちゃん”を主人公とした至光社の絵本シリーズの2作目です。この絵本について、ちひろは、「弟が生まれて、お母さんが一緒に家に帰ってくる日、すべてが赤ん坊の弟のために用意されているような気がして悲しくなったり、弟と二人で遊べると思ってうれしくなったりする女の子の心の揺れ動きを描いた」と語っています。
表紙の作品には、あかちゃんの帽子をかぶり、物思いに沈む少女が描かれています。期待や不安、好奇心や嫉妬など、相反する感情が絡みあう複雑な心境に揺れる少女は、三人姉妹の長女であったちひろ自身の姿に重なります。

心象の世界

ちひろは物語や小説を描くとき、文章が持つ情感を基に、登場人物の心情を表現しています。絵本『たけくらべ』の主人公・美登利は、ちひろにとっての心象の少女象を描いた典型ともいえます。

絵本『たけくらべ』

1971年、ちひろは少女時代からの愛読書『たけくらべ』を手がけました。他の挿絵が、明治の下町情緒や風物詩に重きが置かれていたのに対し、ちひろは、登場人物の描写に焦点をあてて描きました。花魁となる運命を背負った美登利は、勝気でお転婆な少女として登場しますが、信如への淡い恋心を抱き、人生の機微と哀しみを知り始めます。子どもの世界に別れを告げ、髪を桃割れから大島田に結い直した日の美登利は、陰りのある表情の中にも、自らの運命を受け入れ、しっかりと生きていく強さを持って描かれています。ちひろは、この絵本の制作に際し、一葉記念館を訪れ、イメージを膨らませながら、「凛として美しい美登利像」を表現したのでしょう。

展示品数 約50点

美登利『たけくらべ』(童心社)より 1971年

関連イベント

ギャラリートーク

日程 : 3/12(土)、3/26(土)、4/9(土)、4/23(土)
時間 : 14:00~
申込 : 参加自由
料金 : 無料(入館料のみ)
バラ飾りの帽子の少女 1971年なべをかかえる少年と少女 1971年
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