子育て支援講演会 対談「絵本と子育て」 佐々木宏子×竹迫祐子

2010年6月12日(土)

「2000年代の日本の絵本展」に関連して、乳幼児心理学が専門の鳴門教育大学名誉教授、佐々木宏子先生と当館副館長竹迫祐子による対談を開催しました
主催 松川村青少年育成村民会議・安曇野ちひろ美術館
共催 松川村公民館・松川村図書館


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竹迫 今日は、絵本美術館の立場から教育心理学の立場の佐々木先生に、絵本が子どもの成長にとってどんな意味を持っているのか、お話を伺いたいと思います。最初に、佐々木先生がどのような方法で、絵本と子どもの関係を調査し研究をされているのか、収集されているビデオを拝見しながら、ご紹介いただけますか。

佐々木 これは5ヶ月のあかちゃんが昔噺「ももたろう」の話を聞いているところです。一緒に語っています。口から泡を吹いていますでしょ。これは共鳴動作です。全く意味はわかっていませんが、昔噺の語りのリズムに乗って、「アタシもしゃべるわよ!」ですね。一方、同じ5ヶ月のあかちゃんが『もこ もこもこ』を読んでもらっているところです。絵本と読み手を交互に見ていますね。これが三項関係です。絵本の絵と言葉を聴きながら、その意味を読み手の表情を通して懸命に理解しようとしています。  これは、2歳7ヶ月のとき、一人で模倣読みができるようになったときです。擬態語の意味は、大体つかんでいますね。「ぎらぎら」っていうところは、全身を使って表現しているという感じですね。  こういう『もこ もこもこ』のようなあかちゃんとの生理的コミュニケーションを可能にする絵本が誕生したことで、あかちゃん絵本の概念が変わりました。このようなタイプの絵本は、今のところ日本だけだと思います。この種の絵本が出てきたことで、あかちゃんの絵本年齢が引き下がりました。

竹迫 幼い子どもにとって、絵本を読む、読んでもらうということは、容易いことですか?

佐々木 いえ、子どもが絵本を読んでもらうというのは、手足を自由に使って遊ぶのとは違って、心理機能から言えば、大変高度な認識活動です。

竹迫 ということは、子どもが美術館で絵を鑑賞するということは、絵本を読んでもらうより難しいことかもしれませんね。そういえば、子どもはよく親がどのように絵を見ているかを確かめています。

佐々木 絵本でも、「お母さんが好きだから」ということも影響を与えますね。周りの大人が文化財にどういう反応を示すかは、子どもにとって大切な文化への入口になります。大人の役割は大事です。

竹迫 「うちの子によい絵本を教えてください」という質問をよく受けますが。

佐々木 本を概念的に「良い」と「悪い」に分ける文化は日本に強いですね。一番重要なのは、絵本一冊一冊がその子にどうなのか、ということ。その子の個性にあった絵本を選ぶことだと思います。そして、子どもが選ぶ力を持てるようにすること。親は最初は、自分の好みで選んでいいんです。ただ、子どもがそうでない絵本を選んだときは、親は好奇心をもって、「なぜだろう」と考え、この子の個性は将来どんな方向に向かうのだろうかという期待をこめて、子どもを深く知る努力をしてほしいと思います。そのことが良い親子関係を形成することにもつながります。

竹迫 大人が上から下へと、絵本を渡していくということではありませんね。

佐々木 決してそうではありません。自分が家族としてあかちゃんを受け入れるということは、あかちゃんが発する信号に気付いて、あかちゃんが要求している生理的なレベルのコミュニケーション方法を自分のなかに復活させ、複合的なコミュニケーションができる人間として自分を作り変えていくチャンス。あかちゃんが要求していることに気付くと、あかちゃんを育てることが楽しくなります。

竹迫 絵本は子どもにとって・・・。

佐々木 絵本が不可欠な存在かどうかは、結局人生で何をしたいのかによって決まってきます。私はやはり絵本が培ってきた想像性と言葉の力と、親子が向き合って言葉で大切なことを伝えいく行為、これは21世紀を生きていくうえで、子どもには絶対に持っていて欲しいですね。暴力ではなく、言葉によって多様な価値観を持つことのできる子どもに育って欲しい。人の心を深く理解するという点で、今の子どもの文化財のなかでは、やっぱり絵本や児童文学は優れていると思います。

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